はじめに

平成29年5月22日に生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」)が締結されました。
遺伝資源の取得の機会(Access)とその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Benefit-Sharing)は、生物多様性の重要課題の一つで、Access and Benefit-Sharing の頭文字をとってABSと呼ばれています。
「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」は生物の多様性に関する条約(以下「生物多様性条約」)の第三の目的に位置づけられ、条約締結国に対して、遺伝資源の取得の機会について「情報に基づく事前の同意」及び遺伝資源の提供者と取得者の間で「相互で合意する条件」によること等を求めています。
名古屋議定書は、ABSの着実な実施を確保するための手続きを定める国際文書であり、平成29年5月10日に国会において締結が承認されました。
また、それを受けて、提供国等からの信頼を獲得し遺伝資源を円滑に取得できるようにすることで、我が国国内における遺伝資源に係る研究開発の推進等に資することを目的として、遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(以下「ABS指針」)が、平成29年5月18日付けで公布され、名古屋議定書が、我が国において効力を有することとなる平成29年8月20日から施行されました。

対象となるもの

名古屋議定書は、次のもの及びその利用から生ずる利益に適用されます。
遺伝資源
遺伝の機能的な単位(=遺伝子)を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材であって現実の又は潜在的な価値を有するもの。具体的には、植物、動物、微生物、ウイルスなどの個体(生死問わず)、凍結・乾燥・粉末化されたサンプル、抽出されたDNA/RNAなど。
遺伝資源に関連する伝統的な知識
生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生活様式を有する先住民の社会及び地域社会において伝統、風習、文化等に根ざして昔から用いられている特有の知識のうち、遺伝資源の利用に関連するもの。例えば、薬草に関する知識など。
ただし、上記定義の解釈や生物多様性条約の対象範囲を巡っては、締約国間でも見解の対立があります。
次のものは、我が国はABS指針で「議定書適用外遺伝資源等」としていますが、国によっては適用対象としたり国内法で規制したりしている場合があり、対応が必要です。
核酸の塩基配列等の遺伝資源に関する情報(遺伝資源に関連する伝統的な知識に該当するものを除く。)
核酸の塩基配列など、「情報」を適用対象としている国があります。
遺伝の機能的単位を有しない生化学的化合物
たんぱく質、代謝産物など、「派生物」を適用対象としている国があります。
ヒトの遺伝資源
中国が適用対象としています。

こういうケースに注意

次のような場合には注意が必要です。 これらの計画が発生した段階で、まずは下記の窓口に相談してください。
研究インテグリティ部門

 内線:6800

研究推進チーム

 内線:9704
純粋な学術研究も対象になります。
不適切な手続きに基づいて上記行為を行った場合、次の問題が発生する可能性があります。

ABSに関する手続き

以下に標準的なABSに関する手続きの進め方を記載します(提供国の法令によって変わります)。

まず、次の1〜3の手続きを先生と大学の共同で実施します。

  1. 遺伝資源提供国の共同研究者(カウンターパート)を選び、共同研究に係る契約・協定などを締結する。この時、研究によって生じる利益の配分を含むABSに関する相互合意条件(MAT)を取り決め、契約書・協定書などに記載する。
  2. 提供国の法令に従って手続きを行い、提供国政府から遺伝資源取得についての事前同意(PIC)を取得する。(共同研究者に取得手続きを義務づけている提供国が多い)
  3. 有体成果物移転契約(MTA)を締結した上で、遺伝資源の取得を行う。
現時点では多くの場合、ここまでで必要な手続きは完結しますが、提供国の国内措置の整備が進んでいる場合は、次の4〜5の手続きが行われます。
(参考)諸外国の締結・法令策定・IRCC発行の状況(環境省)
  1. 提供国政府が、ABSクリアリングハウス(ABSCH)に上記手続きの内容を通達する。
  2. ABSCHが、国際遵守証明書(IRCC)を発行する(発行されたIRCCはNational records(ABSCH)に掲載)。
IRCCが発行された場合は、環境省に報告する義務があります。先生と大学の共同で次の6〜7の手続きを実施します。
  1. 実施した手続きや遺伝資源の取得について環境省に報告する(報告内容はABS指針に基づく報告(環境省)に掲載)。
  2. 5年後、環境省からのモニタリングに対応(報告書を提出)する。

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